Trans Eurasia Express since 2002

 
is a quarterly articles series, now kindly hosted by H.I.S. London (until No.49 by H.I.S. Touristik Deutschland GmbH) on interesting trains and other means of transportation in Europe, Asia and other corners of the world, with technical, historical and cultural interests. All photographs, sounds and videos are taken by the author unless otherwise expressly mentioned.

Mikio Tanaka

 
     
   


 
69. 星空と雲海/軌条の間で沐浴を

ー エミレーツ航空A380とオーストリア連邦鉄道Nightjet ー
Enjoy the shower on board – Emirates A380 and ÖBB Nightjet
今回の撮影地: アラブ首長国連邦 オーストリア ドイツ イギリス アメリカ


Emirates A380 and CityNightLine (now ÖBB Nightjet) –
Public transports that offer shower services on board

遠隔地で朝一の約束がある場合、夜行列車があれば早朝の飛行機に乗る為の未明起床を避けられるが、汗臭い姿で会議室に乱入する訳にはいかず事前にどこかでシャワーで身支度する必要がある。現地早朝着の長距離国際線では宿にアーリーチェックインしようにも前泊が必要な時間帯なのでシャワー問題は待った無しだ[註1]

[註1] フランクフルト空港の場合は到着ロビーのシャワールーム(朝5時から営業、6ユーロ)を良く利用する。しかし窓口に人がいた事がなく、数十m離れた館内電話から総合案内経由で担当を呼び出して貰い、ドイツ語は片言の移民労働者が長い廊下をゆっくり歩いて来るのを10~20分、伸びていく入管の列とベルトの荷物を気にしながらベンチで辛抱強く待たねばならない。T2では入管直前に日航のラウンジがあるのだから、例えばワンワールド系の到着ビジネス客にはラウンジのシャワーを有料でいいので使えると良いのだが、そういう制度は聞かない。


LHR空港のBA A380(上)とウィーン中央駅のNightjet平屋車(下)

機内シャワーがあればこの問題は解決する。大型タンクと強力なヒーターが必要なシャワーを、省スペースと軽量化が極端に重要な航空機の定期便で実現するのは不可能だったが、世界最大の旅客機A380の巨体が不可能を可能にした。本稿ではシャワー付の代表的な定期交通機関、エミレーツ航空EKのA380と、オーストリア連邦鉄道ÖBBのNightjetをご紹介する。

 
1 エミレーツ航空A380
 
1.1 機内シャワーサービス

水が貴重な砂漠の国々だけに中東の航空会社のもてなしの演出は「水」がポイントのようで、EKもカタール航空QRも本国のラウンジには満々と水を湛えた大きな池がある。成田(↓右下)等の海外のEKラウンジにも小さな池がある。



上:ドバイのEKラウンジ。大きな池の周囲の座布団では水を間近に感じる事ができる。
Water is important tool for airline companies in the middle east to show hospitality.
Bottom left: The reversible cabinet can be converted into a small waterfall in A380.

左下:EKのA380は二階先端デッキの酒類キャビネット❶を裏返す❷と流水パネル❸が現れ、小さな滝を演出する。右中:QRの洗面所の蛇口は清流を視覚的に楽しめる工夫がされている。しかし水に関する最大の贅沢は機内シャワーサービスだ。A380のヘビーユーザーであるEKはファーストクラスにシャワールームを標準装備したのでマイルを使って1往復使ってみた。


There are three restrooms in the First Class cabin of EK A380; two of them with a shower room each.

シャワールームは2階先端階段両脇に2か所ある。目測でそれぞれ3畳くらいはありそうな広々としたトイレとアメニティコーナーの後方隅に、透明の曲面アクリルで仕切られたシャワールームがある。湯の準備の為遅くとも30分前迄にCAに利用希望時間を伝えておく必要があるが、到着間近の時間帯の利用希望が多い事が予想されたので搭乗早々予約しておいた。気流が不安定だと利用できないが、現代の天気予報の確度は高く予定航路の気象は出発時点で大体把握できるようだ。



壁には脱稿日現在世界一高い206階建828mのブルジュ・ハリファを始めとする今日
のドバイのスカイラインと、昔のダウ船の対照的な絵が薄いタッチで描かれている。
The shower service must be booked at least 30 minutes in advance so that the hot water
can be prepared. The shape of the foot mat perfectly fits the floor of this bath room.

予約時間になるとCAさんが席に来て案内してくれる。EK支給の寝間着にスリッパ姿(低人口密度のファーストでは許される「ドレスコード」だが、EK では全席ドア付個室なので無人の路地を歩く感覚で全く抵抗は無い)で行くと自分用のタオル類と足拭きマット(円形シャワールームの形にカットされた特注品)が既に準備されていた。共用シャワーだがこの方式だとプライベート感がある。床の熱がスリッパを通して足裏に伝わり、貯湯タンクがこの床下(階下は客室なのでタンクは扁平な形なのだろう)にある事を窺わせた。床暖房的でその辺りは裸足になっても快適だった。



上:左側の浴室は前方収納扉が無いのでベンチが先端まで回り込んでいる。左下:こ
のような大型換気扇があっても、すぐ次の客のトイレやシャワーの利用に備えなけれ
ばならないので、使用後の清掃は一人何役もこなしているCAさんには負担だろう。
Time limits : 25 min. for the whole use of the bathroom, 5 min. in aggregate for the
shower. The remaining hot water (in percentage) is displayed in the shower room.

他の乗客の利用を阻害しないよう浴室滞在時間は更衣時間を含め25分迄だ。薄壁一枚隔てた機外はマイナス50度以下、雲海の遥か上空の成層圏を時速1000キロ前後で飛行中に全裸になるというのは奇妙な開放感があった。透明な筒形のシャワールームのアクリルドアを閉めると密閉空間の中で天井のLED点光源が白々と輝き、眼前にスイッチ類とメーターが並ぶSF的な空間になる。



無機質なシャワー室内にランの花が文字通り花を添えている。

累計5分という給湯時間は必要にして十分だった。眼前のLED残量計を見ながら、まず全身を温めた段階で一旦湯を止め、シャンプーや石鹸で洗体後シャワーボタンを再び押して濯げば余裕で身支度を済ます事ができた。奥の壁は椅子形状になっており、最後は湯が止まるまで座って寛ぎながら湯浴みを愉しむ事ができた。



The big mirrors amplify the spacious feeling of the bathroom. The flight
information tells the passenger that this is not a restroom in a cozy hotel.

一つの浴室内にシャワー室が2つあるように見えるがそうでは無い。鏡が多用され、飛行機離れした広い浴室が更に倍に広く感じるのだ。ここで寝間着から背広に着替え、着陸後の準備万端で席に戻る。ヘアドライヤーも完備しホテルの浴室内のようだが、現在位置を刻々と表示するフライト情報がここが機内である事を教えてくれる。機内シャワーは素晴らしいサービスだが、砂漠の水のように貴重な機内の湯を大量に消費するのでファースト専用にならざるを得ないのが残念だ。

1.2 A380寸描

空の旅の大衆化[註2]に大きく貢献した先頭部2階建のジャンボ機B747[註3]は、1969年の初飛行以来半世紀にわたり改良を続け累計1500機以上製造されたベストセラー機だ。2005年初飛行のA380はB747を凌駕する総2階建で全てエコノミー席にすれば理論上800席作れるそうだが、実際は巨体を活かして機内ラウンジ(本節最後の組写真右下)を設ける等ゆとりを持った客室設計がなされている。

[註2] B747が設計された1960年代、近い将来国際線の主力は超音速機(第59話参照)に移行すると予想されていたが現実はそうはならず、高嶺の花だった空の旅の大量輸送による大衆化に重点が移った。長距離大型機のB707やDC8の定員がいずれも単クラス換算で約150~200名だった当時に一気に3倍超の定員を誇るB747の登場は正に画期だった。膨大な座席数を捌く為に実勢航空運賃は低下し、航空運送自由化を技術面で可能にした立役者でもあった。
[註3] 需要に比べ空港容量の小さい日本はB747最大の輸入国で、長距離国際線の他に国内短距離線大型シャトルとしても重宝されたが、A380は2019年に全日空が2機を導入するまで輸入ゼロが続いた。


ドバイ空港のラウンジ専用ゲート(上)はA380の場合2階席に直結している(中左・右端の搭乗橋)。
At DXB the huge first/business class lounges are directly connected with the upper deck of
A380. Accordingly, at DXB there is no need for the passengers to use the staircases inside A380.

2階部分を延長したB747-300やそのハイテク版-400[註4]でも2階席は狭く通路は1本で、ロフトに上がって行くような感覚があった。しかしB747-400より床面積5割増というA380 では2階も通路2本のワイドキャビン(1階より多少狭いが)で、2階の特別感的なものは失われた。EKのハブ、ドバイ空港では途方もなく広大(ラウンジ専用の商店街まである)なファーストやビジネスクラスラウンジからそのままA380二階へ直結(上・中左)というのが乗客の動線なので、機首と最後尾にある機内階段はクルーのみが使う。

[註4] デビュー当初、ローンチカスタマーだったシンガポール航空は頭部の巨大さから-300をビッグトップ、-400をメガトップと名付けたが、A380はオールメガだ。


左中:放水で就航を祝われるQRのA380(搭乗機が偶然初飛行便だった)。左下:壁に耳あり襖
に目ありというが「天井に目あり」なのでドア付個室だからといってだらけ過ぎてはいけない。
席からは小さな黒点にしか見えない機内監視カメラ(左下矢印、写真はB777)の画像は鮮明だ。
Left top/middle: Panoramic views from the vertical tail of A380 can be seen on the monitor of each seat.

垂直尾翼上端の機外カメラから自機の前方巨体を見下ろした、タンカーのブリッジからの景色のような景観を座席のモニターで見る事ができる(左上中)。少年時代サンダーバードに心躍らせた世代の筆者は、垂直尾翼内に操縦室(右下矢印)を設けた地球航空Air Terraneanの原子力超音速旅客機ファイヤーフラッシュ号(右はその模型)を思い出す。しかし想像力豊かなサンダーバードの作者も、尾翼からの大パノラマを全乗客がリアルタイムで楽しめる近未来を想像できただろうか。



Rapidly improving business class (top left: Q Suite of Qatar
Airways) forces the first-class to further upgrade itself.

長距離ビジネス席はフルフラットが一般化し、QRが2018年に登場させたQスイートに至ってはビジネスクラスなのに全席ドア付個室になった(左上、BAも今年中に追随予定)。ここまで来るとビジネスとのハード面の主な差は (EK最新のB777のファースト(下)のように座席を1-1-1配列まで減らし隔壁上端が天井に達する完全密閉式個室にまで踏み込まない限り )寝台モード時の足元の幅がフルサイズかハーフサイズか、個室ドアが電動両開きか手動片開きか(実は後者の方が便利だ)位しか無くなってしまい、ベッドメークやシャワー・寝間着支給等の付随サービス(上記B777最新型では1-1-1の中間列はリアル画像表示のフェイク窓が付き、遂に「全席窓側」になった)での差別化が重要になってくる。



1-1-1配列で密閉型個室の最新型(一つ前の組写真下段)を一回見
てしまうと、この華美な個室席が色褪せて見えるから困ったものだ。
Plenty of woods and gold plating feature the interior of Emirates.
上:EKのインテリアは木目と金メッキが目立つ。木材が貴重な砂漠の国では木目が高級感演出に有効なのは理解できるが、金ピカの方は - 好みの問題だが – 良く言えば秀吉好み、悪く言えばflashyな印象を受ける(後継のB777では派手さが抑えられぐっとシックになった)。左下:A380二階席は側壁の角度が作る空間にポケット型収納が並ぶ。写真はビジネスクラスで壁際の隙間をキャビンの端まで見通す事ができるが、ファーストではこの部分も個別遮蔽される。右下は平屋のB777で、A380二階との側壁の角度の差が明白だ。


消灯前に照明が紫から青を経て次第に暗くなっていくのに反比例して星空が現れ、最
後は漆黒の天井にバーチャル星空だけが静かに輝く(左下)。素晴らしい光の演出だ。
Sophisticated night light – numerous LEDs hidden in the roof give the passengers
the impression as if they were sleeping outdoors under the full, starry sky.

LEDが普及し機内照明の色変化が流行中だが、EKは光の遊びを更に進化させた。機内消灯時、天井にランダムに埋め込んだ白色LEDのみ常夜灯代わりに点灯させて疑似星空を演出するのだ。しかしそれなりに設置コストがかかるようで、ファーストの天井は満天星空だがビジネスでは通路上のみが星空になる。またA380では天井だけだったが、B777(右下)では床にもLEDが埋め込まれていた。足元にも星屑とは宇宙旅行をイメージしたのか、こういう遊び心を筆者は愛する。





上:ドバイでモスクのミナレットと高さを競うA380の尾翼の放列。右上:JFK空港の
大韓航空A380。操縦席が中2階にあり、このままでは貨物機版に必要な大型ノーズカーゴ
ドアを設置できない。左下:筋骨隆々たる主翼付根部分。強力な負荷がかかるのだろう。
Top: Fleet of A380s and the minarets in Dubai. Emirates is the top customer of A380.

2019年1月現在の総製造数僅か234機の半数弱がEKで、ドバイ空港の壮観なA380の大編隊はアラブ首長国連邦の経済力(1機約500憶円、100機なら50兆円という大買物だ)を実感させる。A380は素晴らしい機材だが、2019年2月、2年後の製造終了が発表された。空港側でもA380対応の搭乗橋が必要という当初から想定内の問題の他、①航空燃料高騰が消費の多い4発機を直撃②低コストの双発機が高性能化・大型化し長距離線もカバーできるようになった(B777・A350等)③輸送構造の変化(大都市間を巨大機で結び中小都市へは中小型機で繋ぐハブ&スポーク型輸送から長距離飛行が可能な中型機(B787等)の実用化に伴い中規模都市間も網の目のように直行便を飛ばすpoint to point輸送へ)、とデビューした時には既に巨大機市場は縮小しつつあった。生まれるのが遅過ぎた英雄、伊達政宗のような飛行機だ。

 
2 ÖBB Nightjet
 
2.1 Nightjet概要

1990年代、航空業界の規制緩和・昼行特急の高速化・夜行バスの発達・人件費高騰は日欧の夜行寝台列車を斜陽化させた。これに対処すべく、ドイツ語圏DACH3国(独D+墺A+瑞CHを繋げたダッハは屋根を意味する – 確かに欧州の屋根だ)の国有鉄道(ドイツ鉄道DBは後に民営化)が出資したCityNightLine(以下CNL)株式会社が、個室寝台車+簡易寝台車+座席車を混結しビジネスユースから学生用まで幅広いメニューを揃えた統一コンセプトの寝台列車網を展開[註5]した。CNLは後にDB単独系列となったが、LCCの一層の攻勢にDBは一層の合理化で応えた。人手を要し共通運用の困難な専用車両のCNLを廃止し(2016年末)、僅かな夜行需要は高速列車ICE(座席車)の終夜運転で対応するという荒業を繰り出したのだ。

[註5] 当初の社名DACH Hotelzug AG/DACHホテル列車株式会社が示すように運転範囲はDACH3国が中心だが、イタリア等非ドイツ語圏諸国にも乗り入れる。


左上:オーストリア国旗形「肩章」を付けたNJ。この日のドイツ区間の牽引機はDB101特別塗色機。
After the German Rail DB decided to stop operating the sleeping car network through its subsidiary
CityNightLine (“CNL”), the Austrian Federal Railway ÖBB purchased the shares in CNL and renamed
the service to “Nightjet”. The newly added small Austrian flags decently show that it is now Austrian.

しかし捨てる神あれば拾う神あり、DBに断捨離されたCNLの株式をオーストリア連邦鉄道ÖBBが譲り受け、自国を走らない路線も含め路線網をほぼ維持しつつ商品名をNightjetと改めた。軌道インフラを公的部門が所有し複数の鉄道事業者に貸し出して競わせる上下分離方式が徹底している欧州ならではの解決方法だった。DB標準塗色に塗り替えられてしまっていた車両をCNL登場時の濃紺に戻した上でオーストリア国旗色の肩章を付けた装いは、CNLの初心に帰りつつ今後はÖBB主体で運営していく気構えが感じられる。

2.2 車内シャワー設備

給湯タンク容量は流石に飛行機より大きいようで、シャワーの利用時間に制限は無く、何より自室にシャワーがあるのが良い。シャワーは1回ボタンを押せば湯が30秒出続け、何度でも押せる。30秒でも結構洗えるもので、その10回分に相当するA380の5分というのは十分過ぎる事も改めて分かった。



効率的なNJ平屋車の個室シャワー。DBが一時導入したタルゴ
(スペイン製1軸連接客車)寝台車版と同様のユニットだ。
The individual shower room of the single-story coach of
NJ is spacious thanks to the well-designed restroom.

スペースに余裕のある平屋車の場合はシャワー室も広く、ヘッド+ホースから成る通常の方式だ。トイレ区画とはカーテンで仕切られ、ビジネスホテルのシャワー室の印象に近い。洗面台は大ぶりな半球型で、トイレ利用時はシャワー室に、逆にシャワー利用時は便器の上に水平移動できる。ダブルデッカー車のシャワー室はA380よりも狭く少し動くと体が壁に触れる程で、シャワーは角度調整可能な固定ノズル方式だ。



2階建車ではシャワー室・トイレ間の円形スライドドアは防黴と閉塞感緩和の為か上部が空いている。
The individual shower room of the double-decker coach of NJ is even smaller than that of A380.

夜行列車で良くある時間調整の為の長時間停車(多くは鉄道用語で言う「運転停車」で客は乗降不可)中、深夜のホームを眺めていても仕方ないのでシャワーを浴びようとしたら湯が出ない。電化区間だったが機関車からの給電は無かったようで何度シャワーボタンを押しても冷水がちょろちょろ出るだけで、車掌室(各寝台車に車掌を1名配置)直通のインターフォンで状況を問うと「湯は列車が動き出したら出るよ」との答えで、その通りになった。欧州の客車列車では長時間停車中は電池で賄える車内照明程度は使えるが消費電力の大きいエアコンは止まる事がある。シャワー用の給湯装置は後者のようだ。



上:平屋車見取図。12室中5室が3人部屋(単独使用可)・7室が1人部屋、3室がシャ
ワー・トイレ(釣鐘状の区画)付、2部屋単位で接続可。各客室窓も緑矢印の脱出ルートに
なっているのは、欧州の高い安全規格に従い非常用ハンマー(目立つ位置に常備)で窓を安全
に割れるようにしてある為だ。左下:二階室には脱出用非常梯子まであった。右下:朝食例。

日本のシャワー付個室寝台との大きな違いは、Nightjetの実用志向と低価格だ。日本では共用シャワー初登場は1987年のあさかぜ用スハネ25形700番台で、個室専用シャワーはその翌年の北斗星用ロイヤル個室からだったと記憶する。ロイヤルは極めて高価だったのに販売成績良好でシャワー付き個室=高価な非日常体験という悪しき前例となり、これに続くトワイライトやカシオペアのシャワー付個室も内装を豪華にして高価で売るビジネスモデルとなり、朝一番機のPlan Bという実用的なビジネスの足としての商品化が試みられないまま消えてしまったのが惜しい。

2.3 Nightjet寸描

Nightjet(以下NJ)とは夜行には速過ぎる名前だが、ÖBBは特急列車はRailjet、近郊列車はCityjetとjet尽くしでブランディング中なのだ。独仏のような高速新線網の無いオーストリアで高速性を訴求するのは一見意外だが、ÖBBは独Siemens社の韋駄天機関車Taurus(急行機型は営業最高時速230km、高速試験では357km/hを達成)を大量投入して在来線の高速化に努めている。NJの客車も時速200キロ対応で、大陸欧州の在来線は馬鹿にできない。国際性も豊かで例えばウィーン~ベルリン線は途中ポーランドやチェコも経由し、ポーランド国鉄PKPやチェコ鉄道ČDの車両も混結する。これら東欧諸国も今やシェンゲン協定加盟国なので国境検査は行われない。



上:製造者・最高許容速度・登録国(Aはオーストリア)・乗入可能国等が記された牽引機タウルス
の諸元表。中左:ドイツにフランクフルトは2か所あり、ヘッセン州のFrankfurt am Mainマイン川
沿いのフランクフルトと区別してポーランド国境の方はFrankfurt an der Oderオーダー川沿いのフラ
ンクフルトという。中右:チェコの某駅で並んだチェコ鉄道車。下:NJ自身も東欧車を混結する。
The NJ trains connecting German-Austrian capitals run via Poland and Czech Republic. Since
both of them are now members of the Schengen Agreement, no passport control is conducted.

二階建車は寝台とは別に座席があるので寝台は予めセット済の状態で入線する。これに対して平屋車の寝台は座席兼用なので就寝時間になると車掌が各部屋のベッドをセットして回るが、ベッドメーク済の状態で壁に畳み込まれた寝台を引き出してロックするだけで出来上がりだ。食堂車の連結は無く、レンジ加熱式の簡単な夕食(有料)と朝食(メニュー中6アイテムまで無料、2つ前の組写真右下)を車掌が持ってきてくれる。



Comfortable and panoramic single room in the NJ
double-decker coach with individual shower room.

ダブルデッカー2階室は3畳程だが、窓が4枚もあるので閉塞感は無い。天窓のブラインドを開けると – A380のようなLED星空ではなく - 本物の星屑を寝ながら眺める事ができる。複雑な形のキャビンは僅かな空間の無駄もなく作り込まれており、SF映画の宇宙船のキャビンのようだ。大人一人がやっと入れる程度の筒状シャワールームも宇宙船感覚を盛り上げる。



右上:下から2つ目の丸灯は座席モード時の読書灯。他の横長の3灯は寝台モード時のベッドランプ
で撮影用に全て点灯してみた。3人部屋の単独使用なので上中段の寝台は畳み込まれたままの状態。
右下:3枚並ぶドアは、右から順に廊下への出口、シャワーWC(茶色部分)、隣室(通常は施錠)。
A comfortable three-bedroom (single occupancy possible) in the single-deck coach with an individual
shower room. “Sliced” shape of the cabin and the rather small window create some locked-up feeling.

平屋車は伝統的寝台車スタイルで室内は木目を多用し近代的デザインの2階建車とは対照的だ。単純な羊羹切構造で、高天井だが京の町屋のように間口が狭く窓も1枚のみで閉塞感がある。1室定員3名だが単独利用も可能だ。寝台車Schlafwagenなので複数利用でも簡易寝台車Liegewagen(直訳すれば横臥車)と異なり未知の乗客と相室になる事は無いのは欧州の他の夜行列車同様だ。2階建車共々、台車のバネも遮音性能も優秀で快眠できる。



上:Taurusの重連とは贅沢だが、実は手前のTaurusが故障して奥の
僚機が救援機として来たのであった。下:CNL時代の初期塗色車。
Top: In Austria NJ was towed by the high-spec Taurus – May be an
overkill for a night train. Bottom: The CNL with original color scheme.

LCC(今や旅客数で欧州最大の航空会社はLCCのライアンエアーだ)や自家用車(高速道路は速度無制限か130キロ制限と高規格なのに、高速料金は無料ないし極めて低廉)との厳しい競争に晒されている欧州の鉄道会社各社は、長距離路線ではLCCの価格設定のアルゴリズムを参考に早期購入かつキャンセル不可の場合は思い切った低価格を設定する売り方をしている。従ってそのリスクが取れるならNJのシャワー付個室寝台が運賃・料金・朝食全て込みで200ユーロもしない事がある。一泊の宿代で快適な移動もできる勘定だ。



上:ÖBBタウルスの左顎にもメーカー名が誇らしく表示されている
(拳骨形バッファーの上)。下:朝日に輝くDB101+NJ二階建寝台客車。

人間の快適さへの欲求は無限だ。同じく中東のエティハド航空が2014年末にA380に導入したリビング+寝室+浴室の3室から成るレジデンスは個室シャワー付で、ここまで来るとプライベートジェットよりは安いという世界だ。その3年後、日本の鉄道では遂に個室に湯舟が付いた(JR東日本の四季島とJR西日本の瑞風。1部屋3泊4日で小型新車が買えるほどの価格にもかかわらず販売は好調という。定員増一本鎗だった国鉄時代と比べると素晴らしい爛熟期を迎えたものだが、回遊型の高価なクルーズトレインばかりなのが惜しい。航空機に比べると遥かに容易に浴室設備を提供できるのだから、ÖBBのように定期路線で実用的かつ快適な寝台列車という選択肢を提供してくれると尚素晴らしい。

 

準急ユーラシア、次はベルリンに停車する。


Next Stop of the Trans Eurasian Express: Berlin (D)
Expected arrival: August 2019
(令和元年5月 / May 2019)
 
 
     
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本連載の画像・音声・動画は引用注記の無い限り筆者が撮影・録音。
資料は各脱稿日現在の該当会社・団体のHP、WikipediaWebsite über die schnellsten Züge der Welt 各所掲のデータを参照したもので、それ以上の検証は行っていない。
意見にわたる箇所は全て筆者の私見である。
   
 
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