Trans Eurasia Express since 2002

 
is a quarterly articles series, now kindly hosted by H.I.S. London (until No.49 by H.I.S. Touristik Deutschland GmbH) on interesting trains and other means of transportation in Europe, Asia and other corners of the world, with technical, historical and cultural interests. All photographs, sounds and videos are taken by the author unless otherwise expressly mentioned.

Mikio Tanaka

 
     
   


 
68. ジェノヴァの水平・垂直両用ケーブルカー

コロンブスの故郷の冒険心溢れる変身電車
Ascensore Castello d'Albertis-Montegalletto
今回の取材地: イタリア 日本 フランス

非日常的体験を楽しむ遊園地の乗物と異なり、公共交通機関は安定した運行サービスが大前提だ。従って公共交通で技術的冒険は難しいが、中には猛者もいる。山の湧水や都会の下水の重力エネルギーを動力源とする水重力鉄道もユニークだが、動力源やクラシックなデザイン(フリブールの水重力鉄道についていえば、悪臭も)を除けば単なるケーブルカーだ。筆者が知る限り最大の技術的冒険をした公共交通機関がジェノヴァにある。ジェノヴァは新大陸を発見した欧州史上最大級の冒険家、コロンブスの故郷でもあるのは何かの偶然か。

 
1 ジェノヴァへ
 

ローマで用があり翌日夜のミラノ発で帰京したので国内線か赤い矢号を使えばローマで半日ゆっくりできたのだが、途中ジェノヴァに立ち寄る為に宿を早朝にチェックアウトして長靴西岸の在来線[註1]経由の白い矢号(「赤」「白」いずれも後述)で北上した。トレニターリアTrenitalia(イタリア国鉄FSが民営化された組織で、JRに相当)の高速列車はその性能と役割に応じて矢の色で分類されており、次の組写真左上のトレニターリアの高速列車路線図を見ると、イタリア全土が既に三色の矢[註2]で結ばれている。

[註1] イタリア西岸部分の地中海は、エルバ島(フランス王政復古当時ナポレオンが島流しになっていた)付近を境に南がティレニア海、北がリグーリア海と名前が変わる。リグーリア海沿いの景勝地、チンクエ・テッレ付近はトンネルが多く、折角の車窓がコマ切れでしか見えない。次の組写真下の海景色も、撮影直後にトンネルに突入し抜けた時には町景色だった。
[註2] 蛇足だが広島のサッカーチーム「サンフレッチェ」は、「三色の矢」ならぬ毛利元就の「三本の矢」になぞらえ日本語の「三」とイタリア語の「フレッチェfrecce」(三本なので矢frecciaの複数形)を組み合わせた造語だ。発案者はイタリアの高速鉄道の名前にヒントを得たのかもしれない。


右上:イタリアの韋駄天、ETR400のヒンドゥー神の顔のような尾灯。
右下:南欧の光景を特徴付けるイタリアカサマツの群落を掠める。
Italian high-speed trains have three categories: red, silver and white arrows, depending on the
speed and roles. Many coaches for “silver” and “white” have tilting functions. Middle: Competition
keeps the train fares at reasonable level – High-speed trains of Trainitalia and NTV compete each other
on the same track. Bottom: The White Arrow coach tilts to the right while the train passes a right curve.
上:フレッチャロッサ(赤い矢)[註3]は主に高速新線を疾走する最速列車で、ローマ~ミラノのような大都市を結ぶ最重要幹線が持場だ。上中はローマ・テールミニ駅に進入する最新鋭機ETR400[註4]。現在最高時速300キロだが400キロ運転も視野に入れている。中右手前:フレッチャ(ア)ルジェント(銀の矢)は地方支線もカバーする新・在直通列車に充当される。 写真はETR600[註5]。下:フレッチャビアンカ(白い矢)は専ら在来線の高速化が役目だ[註6]。カーブの多い在来線も走る「銀」「白」の主力は車体傾斜装置付の振子車両だ。直線区間走行時(右下)と比べ、右カーブ走行中の白い矢が大きく右傾しているのが分かる。中:深紅のイタロ号は赤い矢ではなく、私鉄新幹線NTV社の初代ETR575[註7]だ。上下分離方式を土台に新幹線にも競争原理が導入されている為、イタリアの高速鉄道の運賃は、トレニターリアもNTVも驚く程安い。
[註3] 「赤い矢」は鉄道会社が好む名称のようで、日本の西武鉄道レッドアロー、スイス連邦鉄道のボンネット付電車ローター・プファイルRoter Pfeil、ロシア鉄道の看板寝台列車クラースナヤ・ストリラーКрaсная стрелa(第50話参照)も同じ名を冠する。
[註4] ETR400を用いた赤い矢はフレッチャロッサ・ミッレ(1000)の愛称が与えられたが、両者が融合してETR1000と呼ばれる事もある。「銀」「白」の多くは加減速性能に優れた電車方式なのに対して「赤」は大型モーター搭載・高速性能重視の両端機関車方式だったが、ETR400では電車方式で統一された。
[註5] フィンランド~ロシア間の国際特急アレグロ用Sm6や、中国新幹線CRH5はこのETR600がベースだ。因みに中国新幹線CRH2はJR東北新幹線E2、CRH3はドイツのICE3がそれぞれベースだ。今日の高速鉄道が重要な輸出商品となっている一例だ。
[註6] その意味で「赤」はドイツ鉄道DBのICE3に、「白」はICE4に相当する。
[註7] ETR575は美しく一目でファンになった。ラグーンを渡ってベニス島に向かうETR575の全身ロングショットを第45話末尾でアップしたのでご興味のある方はご訪問されたい。


右下:中央広場駅内の日本料理屋のデザインのモティーフは昭和の住宅地に
そこら中にあったコンクリートブロック塀だった。外国人には印象深いのだろう。
White Arrow train with tilting function departing from Genoa Main
Square Station as well as the classic coach of Granololo rack railway

「白い矢」として運転されるETR460の車体断面や側面形状は、旧国鉄を代表する振子電車381系にそっくりだ。同じ機能を追求すると形状も似てくるのだろう。途中下車したジェノヴァ・ピアッツァ・プリンチッペ(主たる広場→中央広場)駅は両端がトンネルで立体感に富む。終着トリノに向けて発車するETR460の背後に、偶然グラナローロGranarolo線の赤い登山電車が写り込んでいた(白矢印)。長崎もそうだが山が海に迫った町には地形に対応した面白い乗物がある。この町には更に、映画のセットで使われたガレー船ネプチューンNeptute号やコロンブスの家(再現)も公開されているが、如何せん時間が無い。若い間は「いつか又来よう」で良かったが、加齢と共に健診でビンゴ項目が増え、「次」はあるのかが次第に怪しくなる。しかし1か所しか訪れる時間が無い以上、ここは選択と集中しかない。せいぜい一期一会ならぬ一期一「絵」でいい絵を目指す事にした。

 
2 モンテ・ガレットの水平・垂直両用ケーブルカー
 
2.1 バルビ通りvia Balbi駅

「選択と集中」の対象は、世界でここにしか無いと思われる、垂直・水平両方向に動く乗物、通称アルベルティス城・モンテガレットエレベーターAscensore Castello d'Albertis-Montegallettoだ。モンテ・ガレットと語感は荒々しいが、「雛鳥山」というかわいらしい名前の山上のドガーリ通りcorso Dogali駅と、ジェノヴァ中央広場駅から徒歩数分の麓にあるバルビ通り駅を結ぶ公共交通機関で、ジェノヴァ市の地下鉄・バスネットワークAMT Genovaに組み込まれている。



Via Balbi Station of the unique public transport in Genoa, which
converts from a horizontal cable car to an elevator and v.v.

古いビルが密集する路地の奥の石窟寺院のような入口が、目指す乗物の麓駅だ。入ると壁に概念図と技術データが掲出してあった。推測と予断を交えて読むと、「水平・垂直統合型鋼索式公共交通装置」、少し意訳して「水平・垂直両用ケーブルカー」というのが正式名称のようだ。1両編成の小型車両(ゴンドラと呼ぶべきか)がまず約230mを秒速4.5m(時速16.2km)で水平移動し、次いで約70mを秒速1.6m(時速5.8km)で垂直移動する、とある。大陸欧州で一般的な信用乗車方式なので改札は無い。片道2ユーロだかのAMT初乗運賃が適用されるが、AMTの1日乗車券を買えば気の済むまで楽しめる。



Entrance at via Balbi station

車両には進行方向後部から乗り込む。水平区間の軌道は単線(後述のモード変換セクション付近を除く)なので、麓駅の乗降口は1か所だ。上左右は到着直後の空車時、下左右は発車待ちの様子。左上下は車外から車内を、右上下は車内から車外を眺めた様子。左下:案内放送は一切無く、出発時も「まもなく出発Partenza imminente」の赤いテロップが流れるだけだ(左下)

2.2 車内

車内は小型電車とエレベーターのDNAが混在する。ドアはエレベーター丸出しだが、全区間地下にもかかわらず窓は多く、椅子も吊革もある、不思議な車内だ。



Interior of the carriage which accommodates up to 23 passengers

車内を入口から奥を眺めた様子(上)とその逆(下)。狭いので左右の椅子はジャンプシートとなっている。23人乗りで、吊革も6本ある。左右にあるスライドドア状のものは非常口か。



This underground transportation system is unique also
in that it offers 360˚ panoramic view to the passengers

無人運転で、防犯カメラが設置されていた。平日の昼頃に3往復したが、乗客数はたいてい数名、1回は筆者独り、1回は遠足の小学生がどやどやと乗り込んで満員御礼だった。四囲にガラスがあるので子供達は皆てんでの方角を楽しそうに見ている。こんなに楽しい地下鉄道も珍しい。

2.3 水平区間

去り行く車両をガラスドア越しに観察した。



In the horizontal tunnel section the gondola runs
on 850mm-gauge rails as a horizontal cable car

広角(上3葉)と望遠(下2葉)で見た水平区間走行風景。水平区間は850mmゲージのレール上を、画像左側を流れるケーブルを掴んで走るケーブルカー方式なので車両にはモーターは無く、走行音は車輪の回転音だけだ。ケーブルの反対側に緊急時用の通路があり、この下にも線が見えた。こちらは車両給電用の饋(き)電線か。

出発から到着まで一切の車内放送は無い(非常時用の通信装置はある)。何気ない現象だが、欧州の自己責任の文化と静寂・プライバシーを尊重する文化の表れでもある。「利用に感謝する」「揺れるので吊革に掴まれ」「老人に席を譲れ」「今日は雨だ、傘を忘れるな」と、乗客を子供扱いしたようなものまで含む放送が繰り返される日本の車内の、如何に騒々しい事か。こんな変わった乗物がもし日本にあれば、「暫く止まります」「今度は上に動きます」と更に放送内容が増えてさぞ賑やかだろう。

車両は急なS字カーブを経てモード変換セクションに向かう。概念図で「1号線236.05m、2号線233.88m」と2.17mの差がある理由がここで理解できた。1号線はカーブの外側線(分岐左側)なのだ。1号線を走るのが黄色い1号機、2号線を走るのが青い2号機だ。山上駅ではこれらがそのままエレベーター番号になる。2号機に乗っていたので、カーブの先に変換セクション左側で交換待をしている1号機が見える。分岐ポイントは固定されていたので、1号機は向かって左側の車輪が両フランジ・右輪はフランジ無し、2号機はその逆と見た。



水平区間はバルビ通り(水色部分)をそのまま延長する形で
掘られたトンネル内にある。(航空写真はGoogle mapsより)

山上駅は、古いビルがびっしり建ち並ぶ一角の6階建ビルの1階にひっそりと入っている。ドガーリ通りは同駅付近でフィレンツェ通りと緩やかに分岐し道幅が広くなっている(右上)。この地下70mにあるS字カーブとメンテ基地は、この公有空間を活用したものと思われる。山上駅近くのアルベルティス城Castello d’Albertis(左上は中央広場駅付近から遠望した同城)は海運で財を成した船長の城だ。この路線は上町と下町を結ぶ生活路線であると同時に、ジェノヴァ中央広場駅(左端)と同城を結ぶ観光路線でもある。駅前公園(左下)のMonumento a Colomboは(刑事コロンボ像ではなく)1492年にアメリカ大陸を発見した地元出身の大冒険家、コロンブスの像だ。

2.4 モード変換セクション

いよいよこのユニークな乗物の最大の見所、水平移動⇔垂直移動モード変換セクションに入る。



ここで線路は行き止まりだが終点では無い。今度は上昇するのだ。
At the bottom of the vertical shaft, the cable car is automatically loaded on a
gondola of a lift without walls, which then moves vertically with the car inside it.

ネット情報である程度予習して行ったが、モード変換の仕組は不明なままの訪問だった。停車時間は僅か約20秒、しかも明るい車内から窓ガラスへの映り込みに注意しつつ暗い変換セクションを撮影しながらなので観察時間は限られ、2往復した辺りで漸く仕組が理解できた。車両を直接吊り上げるのではなく、側壁の無い骨格だけのケージに入線し、このケージがエレベーターになっており車両を収容したまま上下するのだ。右:線路は行き止まりだがその上にこれから昇る立坑が見える。明るく補正処理したが実際の立坑部分は暗い。



The basic concept apparently comes from a mine - A reconstruction of an ore
car loaded on a gondola displayed at the Ashio Mine Museum in Japan.

足尾銅山の資料館で再現されていた鉱車用のケージ型エレベーター。鉱車をケージに載せて立坑内を巻き上げる運搬方式をケージ巻というそうで、ジェノヴァの変身電車は鉱山や炭鉱のケージ巻鉱車の応用版なのだ。変身電車を納入したPoma社はスキー場リフトやロープウェイ(有名処ではNYイースト川を渡るRoosevelt Island Tramwayも同社製だ)の大手だが、鉱山用リフトにもノウハウがあるのかもしれない。





Top left: At the translation section, rolling tires between the rails
slide the car to load on, and unload from, the platform of the lift.

ケーブル推進方式の水平移動区間の終点脇には、同区間の動力源であるケーブル巻揚機(冒頭の写真左下)がぶんぶん回っている。ここから先がモード変換セクションだ。左上:今度はケーブルの代わりに線路中央で回転する電動コロが車両床下中央に取り付けた細長い金属板(白矢印)に接触してベルトコンベアーのように車両をスライドさせて変換セクションからケージ(右・青枠部分が、骨格だけのケージの底面部分を構成し、ここが上下する)に載せたり降ろしたりする。この複雑なモード変換は全自動で、しかも短時間で行われる。手動で鉱車をケージに載せていた炭鉱(右下は足尾銅山資料館での上映の一カット)から見れば何という進歩だろう。個々の技術は超ハイテクとはいえなくても、その組み合わせが素晴らしい。



Cars 1 and 2 depart from the both terminal stations simultaneously. Car 1
approaches the bottom of the shaft which is the intersection of the two cars.

立て坑底部で交換待の2号機車内から外側線に到着する1号機をドア越しに眺める。次の連続写真は、逆に1号機車内から内側線に到着する2号機を眺めた様子だ。対向車が隣のケージに乗る寸前に発車する設定のようで、2台が停車状態で並んだり、僚機が上昇していく様子を下から見る事はできない。この一見複雑なシステムが(3往復した限りだが)何のエラーもなくてきぱき機能している様子は頼もしかった。



Car 2 approaching the bottom of the shaft, observed from Car 1

「アルベルティス城・ガレット山エレベーター」という通称からも推測できるように、1929年の開業当時はエレベーターだけだった。しかし1976年にAMT Genovaネットワークに組み込まれ統一料金適用の結果バス等の競合交通手段への価格優位を失い、更に約300mも地下通路を歩かねばならないので利用減が続き、1995年に運転を終了した。公募の結果Poma社の冒険的な変身電車案が採用(2004年12月運転開始)されたのは、①既に存在する立て坑と地下通路の有効活用②地上部分がびっしり建築済のうえ歴史的建築物もあり、地上交通だと土地収用・景観・文化財保護の点で問題があったのが原因と考えられる。その意味で、全区間地下の変身電車は特殊な環境に合わせたカスタム・メイドの特注システムで、このユニークな技術的冒険には必然性があったのだ。



Top: Small, independently steering wheels of the car. Bottom:
Platform of the gondola on which the car is about to board.


上:4輪は独立して曲がる構造のようだ。中右:斜め前方に突き出ているコード付の機器は集電靴だろうか。下:ケージのレール付の床は、立て坑の断面に合わせた切り欠きが随所にある。

2.5 垂直区間

垂直区間では何がバランサーか興味があった。ケーブル式のエレベーターでは必ずバランサーがあって巻揚機を介して籠と繋がり、地球の引力に逆らって籠を引き上げるのに要する膨大なエネルギーを、落下するバランサーの重力で相当部分を相殺する仕組になっている。バルビ・ドガーリ両駅同時発車というので、ひょっとして水平移動する車両をバランサー代わりにしてケーブルを変換セクションで直角に曲げてL字形に繋いでいたら面白いと期待していた。しかし垂直移動区間の途中で普通のバランサーとすれ違ったので、変身電車もそこまでアヴァンギャルドではなかった。



At the vertical section the cars serve as normal elevators. Bottom: Vertical shaft
seen through the gap of the floor of the elevator stopping at Dogali Station.


左上:電車からエレベーターにモード変換が終わると出し抜けに上昇を開始し、水平区間の軌道が見る見る下に遠ざかっていく。右上:今度は景色が下に流れて落ちていく。下左:地上に到着後、出口床部分の僅かな隙間から真下を覗いてみた。高さ70mといえば約20階建ビルに相当するので立坑は深い。下右:底の様子。左半分は(ケージが上に来ているので)黒い床が見えているのに対して、右半分(中央柱の右側)は1号機用のケージが下にあり、ケーブルで吊るされた灰色の屋根が見える。1号機はこの時点では麓駅にいるので、このケージは空の筈だ。中左:山上駅側乗降口は全く普通のエレベーターだが、何気に停まっている中のエレベーターは只者ではない。中右:山上「駅」が入っている古い6階建ビル。

 
3 冒険的技術を用いた日本の公共交通機関
 

徳島県つるぎ町の十家モノラックや長崎の斜面移動システムも極めてユニークだが、メカとしてはオーソドックスなうえ地元の方々以外は利用できないのでここでは省く。一般利用が可能で冒険的技術が用いられたが、冒険の必然性が無かった例として成田空港第2ターミナルでサテライトと連絡していたシャトル(1992~2013)をご紹介する。一見どこの空港にでも転がっていそうな代物だが、何と転がる車輪の無い、空気浮上車両だった。



右上:浮上パッドの放列(古い手振れ写真のネガをデジタル化して一部を切り出したので、こ
の画質がやっとだった)。下:駅の停車位置では浮上パッドの位置が丸く変色していた。画面
奥に見える側壁内に、車両給電用のき電線と、車両推進用のケーブルが隠れていた。

この車両には車輪は無く、床下にずらり並んだ浮上パッドに圧縮空気を送って車体を僅かに浮上させたのだ。当時世界最大の自動車会社だったGMがリニアモーター推進方式とセットで開発を始めた技術だが、反トラスト法(独禁法に相当)違反を理由に事業分離を命じられオーティス・エレベーター社が引き継いだ後、エレベーター会社らしくケーブル推進方式(側壁内を流れるケーブルを掴んで動く)に変更された(従って日本では水平エレベーターの扱いだった)。成田T2ではモーター音は無い代わり、シュ~プシュシュシュシュ・・・という独特のエアクッション音を楽しめた。



上:今は空の駅浮和里の駐車場脇で展示されているシャトルの脇を、デルタ航空の
B777がその長い胴体を降下させていく。下:肝心の浮上パッドは撤去され、浮上
用圧縮空気を送っていたホースの残骸にその名残を見る事ができるのみだ。

しかし汎用のゴムタイヤや鉄輪式のシャトルでも十分だっただけでなく、そもそも僅か約300mを移動するのにシャトルを待つ(時には回送扱いで更に1本待たなければならない事もあった)必要は希薄で、2013年に廃止され普通の動く歩道に置き換えられた。途中に商業施設を設けた為コマ切れで、ゲート番号がサテライト側の80か90番台だと気が重い。この空気浮上式シャトルは現在空港近くの駐車場脇で静態保存されているが、一番のポイントだった浮上パッドが撤去されてしまい、コンクリブロックの上に車体だけが載せてあるに過ぎず、これでは唯の箱だ。冒険的技術が用いられていた事実すら共有されていないのは、その必要も無かったからか。



上:Google maps航空写真で見た成田T2(左)とCDG T1(右)。下:CDG T1のサテライトを結ぶ
動く歩道の誘導路下部。航空機の動線を阻害しないよう地下に潜るので上空からは見えない。

結局、冒険的技術というものは、輸送環境がそれを必要とする特殊事情がある場合のみ輝くものらしい。成田T2[註8](左上)に関していえば、距離の短さからシャトル自体が過剰設備だったうえ、メインターミナル~サテライト間を地上構造物で遮ってタクシング中の航空機の動線を阻害したうえ、パスポート検査場間近のベストポジションにゲートを造れなくなった。ジェノヴァの変身電車と成田T2の空気浮上シャトル、それぞれに用いられた冒険的技術は、前者ではその必然性があったので根付いたが後者はそうでは無かった、と総括できるだろう。

[註8] 成田T2の環境に最適の輸送形態はパリ・シャルルドゴール空港(CDG)第1ターミナル方式だったろう。CDG T1の石臼形メインターミナルとサテライト間は距離も近く動く歩道で結ばれるが、装置両端がスロープになっていて誘導路の地下をくぐる(下)。CDG T1は乗客と航空機の動線確保では満点だが、文字通り衛星形に展開したサテライトの配置(右上)に少々無理があり駐機場数を十分確保できず、CDG T2ではフランスにしては平凡なレイアウトになった。環境に最適のシステム設計は容易ではない。
 

準急ユーラシア、次は長崎に停車する。


Next Stop of the Trans Eurasian Express: Nagasaki (J)
Expected arrival: May 2019
(2019年2月 / February 2019)
 
 
     
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