Trans Eurasia Express since 2002

 
is a quarterly articles series, now kindly hosted by H.I.S. London (until No.49 by H.I.S. Touristik Deutschland GmbH) on interesting trains and other means of transportation in Europe, Asia and other corners of the world, with technical, historical and cultural interests. All photographs, sounds and videos are taken by the author unless otherwise expressly mentioned.

Mikio Tanaka

 
     
   


 
65. 「桜」源郷を行く

- 船岡城址公園スロープカー -
The Cherry Blossom Train
今回の取材地: 日本 フランス コスタリカ アメリカ


In Funaoka Castle Park in Shibata City, Miyagi Prefecture, an old two-coach
monorail train, the so-called “slope car”, climbs up and down the Funaoka Hill.
At the peak bloom period the train travels through the tunnel of cherry blossoms.

1 船岡城址公園の斜行モノレール
 

日本の名花といえば桜だが、淡桃色の小花を一斉に咲かせるソメイヨシノ程美しい木の花を他に知らない。花景色を借景にした桃源郷的鉄道撮影名所は多いが、筆者の知る限り最高の花見ができる線は、宮城県柴田町の船岡城址公園スロープカーだ。法律上は鉄道でも軌道でもなく斜行エレベーターという扱いだが、屋外の一本レールの上を走行するので感覚的にはモノレールだ。



It is a very short ride – less than four minutes one way to travel
approx. just 300 meters, but it is worth queueing to ride the train.

東北地方の開花時期+週末+少なくとも雨天でない事、の3条件が合致した土曜日、「はやぶさ」に飛び乗って仙台経由で船岡駅に急行し、下車後直ちにタクシーで船岡山に直行したが、花見渋滞で途中で車を捨てた。ネット情報に違わず満山桜で覆われていたが、今年は桜前線の北上速度が速く、4月初頭というのに盛りを過ぎ無常の強風が花を散らしつつあった。その中を青虫のように見え隠れするお目当てのスロープカーが見えてきた。早速まず上りから乗車して前方展望をコマ送り風に見てみよう。



Front view from the uphill train

ダブルルーフ風のクラシックな小型車両(エレベーターという分類に忠実なら「籠」と言うべきか)が二両編成で麓駅~頂上駅間約300mの単線軌道を片道4分弱で往復する。桜祭り期間中は乗客を入れ替えるとすぐ折り返すピストン運転なので約10分間隔の運転となる。上りの前面展望は下から見上げる視線になるので、桜のトンネルの中を進む感覚が強調される。下から2コマ目中央の屋根と、左下のコマの右端の構造物は頂上駅。曇天のうえ汚れた窓越しの撮影の為、一部薄く靄がかかったようになってしまった。



Panoramic view from the Hilltop Station

麓駅は乗車待客で長蛇の列だったが、仙台平野を一望できる頂上駅からは待たずに乗れた。ダブルルーフ風の意図的なクラシックデザインがいい味を出しているが、町工場で作ったような車体にHゴム支持窓に扇風機等、素のままでも昭和の雰囲気が漂う(但し製造は平成8年)。自動運転だが、柴田町から指定管理者として運営を委ねられた柴田町観光物産協会の従業員が1名ずつ上下車両に同乗して検札と頂上駅での発券を行なっていた。次は下り便に乗ってみよう。



Front view from the downhill train

途中一か所だけある鉄橋(3枚目)を通過した際は、花見客が桜を背景にスロープカーの撮影をしようと一斉にカメラを向けていた。最後の写真:麓駅隣の丘からは桜色の山肌をうねるS字カーブが良く見える為、三脚や大径望遠レンズで武装した高級一丸レフ等、本格的な得物を構えた撮影者も何人かいた。知る人ぞ知る撮影名所のようだ。筆者は弘法筆を選ばずさ、と呟きつつ慎ましいコンパクトデジカメで手持ち撮影だ。



Technically this “slope car” employs monorack system with two vertically installed rails, but
legally it is categorized as an inclined elevator. The monorack system was originally developed
for light-weight transportation system for agricultural purposes in mountainous regions.

メカ面を見てみよう。左上:2両のスロープカー相互間は、急坂に対応する為段違いで連結され通り抜けできない。車体の前後方向の角度は急坂区間を前提に固定してあり奥祖谷観光周遊モノレールと異なり車体角度の自動調節機構は無いので、勾配の緩い麓駅付近では少しふんぞり返るような姿勢になる。左下:レールは(通常の鉄道のように左右2本ではなく)1本しかなくその意味ではモノレールだが、実は上下に2本並んでいる。上のレールは上面で車重を受け止め、裏面はギザギザで下側から車両の歯車を噛ませて駆動させ、下のレールは左右から車輪で挟んで車体を水平に保つという仕組だ。農業用単軌条運搬機(所謂みかん山モノレール)の応用版のようだ。



Left: A gear wheel to move the coach can be observed along
with horizontally installed wheels to stabilize the coaches.
左:この角度からは車体の支持と駆動の構造が良くわかる。上段レールを下から噛んでいるのが駆動用歯車(その右にある横置きの円筒形部品はモーターか)、下段レール左右から挟む支持輪も見える。歯車音+高い歯車比からくる大きめのモーター音+レールのジョイント音が合奏する走行音は、通常のモノレールで一般的なゴムタイヤ音とは全く異なり、むしろスイスのラック式登山電車に似ている。右:2両の籠の間には上下方向に段差がある為、上側車両からも下側車両の屋根越しに下方視界が楽しめる。車体側面に斑に揺れる木漏れ日が美しい。


上下二段の独特の形状の軌道が、空間を埋め尽くす桜花の中に浮いているようだ。

乗物の撮影は決めたポイントに根を生やしてターゲットをひたすら待つ忍耐を伴う作業だが(学生時代本数の少ない北海道で一日数本の蒸気機関車の撮影をした際などは骨の芯まで凍えそうだった)、花見を楽しみながらの快適な取材も珍しい。冷房装置は無く前後の突き出し窓からのみ外気を入れる方式だが、特にこの季節は側面の固定窓は何とも無粋だった。



No Comments..
左上:アニメっぽい桜のヘッドマークは勘弁して欲しかった。右上:ダブルルーフの上を満開の桜の影が流れていく。船岡山城址公園の桜は、麓を流れる白石川両岸の桜並木の放列とセットで「日本さくらの会」という公益財団法人が選んだ日本さくら名所100選に選ばれている。他の名所と写真を見比べても、100選の中でもトップ5に入るレベルに思えるが、「乗物で花見ができる」というフィルターをかければ日本一だろう。


Above: Walkway for emergency use built along the single-rail track
上:レール横のスノコ状の通路は保守用兼非常用と思われる。鉄橋部分(左下の手前部分)ではレール裏のラック軌道を見上げる事ができる。これだけ桜が美しいと、どこを向いて何を撮っても絵になる。スロープカーという名称は斜行モノレールの大手・嘉穂製作所(福岡県飯塚市)の登録商標だ。同社は西日本や韓国での納入実績が多いが、関東では飛鳥山公園モノレール「アスカルゴ」箱根対星館(休館中)等が同社製だ。同社のHPには未来的デザインの納入車両が紹介されているが、1996年製船岡城址公園スロープカーは古過ぎる為か(意匠の水準・傾向の落差が大きく、この間に重要な新技術の開発かライセンスがあった印象を受ける)、納入実績一覧から省かれている。


Funaoka Hill in full bloom at night - Too much color and busy blinking of LEDs on the
monorail car ruined the elegant beauty of the cherry blossoms in a single and soft color.

桜祭り開催中は、スロープカーは21時まで運転される。満開の夜桜の中の走行も素晴らしい。これほど見事な夜桜を筆者は見た事がなかった。しかも車中からなので乗物愛好家としては幸福指数が益々上昇する。しかし残念な点が3つあった。残念その①は装飾過剰。桜は淡い同色の小花が一斉に咲く点が美しいのに、車体に巻き付けられたフルカラーLEDテープがあらゆる色をちかちかと点滅させる。昭和のチンドン屋のようなごちゃごちゃ感が、満山の桜の淡く静かな統一美を損なっていたのだ。



上:明るく見える桜はライトアップによるものではなく、頂上駅ホームの照明を受けたものだ。
下:軌道そのものがヘッドライトとLEDで照らされる以外は、桜はライトアップされない。
Night-ride through the cherry blossoms

残念その②は車内照明だ。桜はライトアップされていないので車外は闇に沈んでいるのに車内は煌々と明るく、固定窓(写真下の前面展望写真は突き出し窓の隙間から撮影)のガラスに反射して映っているのはぎっしり乗った乗客の渋面のみ、では折角の夜桜が興醒めだ。軌道に巻き付けられたLEDテープの明かりが沿線ライトアップの趣旨なのかもしれないが、光度が弱く、桜より軌道をライトアップする結果になっている。コストとの妥協の結果のように思われた。



上:頂上駅に停車中のスロープカーの前照灯に黄色く照らし出されるソメイヨシノの大木
Hilltop (top) and Hill foot (bottom) stations at night

残念その③は前照灯の色と向きだ。一昔前のフォグライトのように黄色い光が軌道のみを照らす。桜の淡い色は繊細な美しさなので、着色光を当てると微妙な色合いがわからなくなってしまう。薄味で素材本来の味を楽しむ京料理に唐辛子とニンニクをぶっかけるようなものだ。また全線高架のうえ無人運転なので軌道を照らす必然性は無い筈だ。乗客としては周囲の桜こそ、原色で見たい筈だ。





Models for possible improvements of Funaoka– Top left: “Beauty of
uniformity” using single-color light-up (Avenue des Champs-Élysées);
Top right : Powerful light-up from the vessel (Bateaux Mouche on Seine
River); Bottom: Open-air coach floating through the trees (Aerial tram in
Costa Rica) – One of the two coaches of the slope car can be open-air!

もし船岡城址公園スロープカーに改善点があるとすれば、上記①③についてはパリ方式が参考になる。左上:2km近く一直線のシャンゼリゼ大通りの並木を同色の灯りで一斉に飾るクリスマス期の装飾は圧巻の統一美だ。小規模ながら東京で同じコンセプトで成功しているのは年末年始の丸の内仲通りだ。右上:セーヌ川観光船中最大のバトー・ムーシュは船内を暗くし、船体に2段も設置した投光器が周囲を照らす(撮影は1980年代初頭で、現在は省エネの為に1段になっている)。この方式だと最小限の電気代で乗客は船の周囲の夜景を常に鑑賞し続ける事ができて経済的だ。船岡山の軌道のLEDテープを撤去し、逆にスロープカーの車体に強力な白色LEDをぐるりと取り付けて周囲を照らし、車内照明を落とせば同じ効果が得られる。
 下3葉は開放式ゴンドラから熱帯雨林を高木の目線で愉しむコスタリカの空中トラムaerial tramだ。日本でもトロッコ列車が人気を博しているように、自然を満喫するにはオープンエアが一番だ。船岡山のスロープカーは2両編成だし乗車時間も短いのだから、一両は屋根のみのトロッコ風にすれば②の問題点が解消できてより人気が出るのではないか。



Top and bottom left: The Shiroishi River is sandwiched by the 2km-long colonnades of cherry
trees on both riverbanks. Bottom right: The Funaoka Station building in a Samurai-castle style.
2 一目千本桜とJR東北本線
 

柴田町に戻ろう。船岡山の麓、仙台平野を穿つ白石川(阿武隈川の支流)両岸に桜の大木の放列が全長約8kmにわたって続く壮観さは、シャンゼリゼの統一美に優るとも劣らない。1200本もあるというので、一目千本桜という通称も伊達ではない。右下:JR船岡駅舎は城郭建築風で鯱(しゃちほこ)まである。



Snow-capped Zaō mountain ranges, cherry blossoms and local trains.
上:遠景に蔵王連峰、中景に桜並木という絵に描いたような構図。強風が吹いていたにもかかわらず、絶好の鉄道撮影ポイントのしばた千桜橋の上はカメラを構えて電車通過を待つ人で鈴なりだった。日本はいつから鉄道愛好家がこんなに増えたのだろうか。東北新幹線開業後の東北本線は長大ローカル線となり運転本数も減ったが、花見期間は増発され吹き曝しの中を凍えながら待ち続ける必要はなかった。電車は乗客への配慮で桜並木区間は徐行していたが、これは撮影者にもやさしいサービスだ。


左上:花見帰り客を満載して船岡駅を発車する仙台行各停と、制帽を強風から守る車掌。
右上:じぱんぐの制御車後位には、武田菱も散らされた宇宙船のような不思議な空間がある。
Trains run slowly along the blooming cherry trees in order to allow passengers to enjoy the spring.

東北本線仙台口の普通列車は狭幅車体+ロングシートという残念な701系と広幅車体+セミクロスシートのE721系が混用され、両者の併結列車も多い。左上は前方(奥)2両が701系、後方(手前)4両がE721系だ。線路際に異様にカメラの放列が目立つので、時刻表を見たら彼らのお目当てはこの日1往復が設定されていた臨時快速「じぱんぐ」である事が分かった。この4両編成の改造車の種車は先頭車・中間車共に旧国鉄485系だが、先頭車は車両限界一杯の車体が新製されたのに対して中間車は車体はそのままでシートモケットや照明の変更等最小限の変更にとどまった*為、こちらも凸凹編成になっている(下)


*1960~70年台にかけて1500両近く大量生産され特急の全国普及に大きく貢献した交直両用特急型電車485系は今やほぼ完全に淘汰され、じぱんぐのこの中間車2両がオリジナル車体のままで運行可能な最後の2両だという。
 
3 砂時計
 

以下は蛇足だ。本稿はダラス再訪時の道中にせっせと書いたものだ。前回は単に乗継で長い待ち時間を利用してDFW空港から市内弾丸往復をして6階博物館 The Sixth Floor Museum*を見学しただけだったが、今回は1泊が入り現地の同業者3名と夕餉の食卓を囲んだたところ、あっと思い当たる発言に出くわした。


*美しい桜の後に血腥い話で恐縮だが、ダラスのこのエルム通りでジョンF.ケネディ大統領は暗殺された。犯人オズワルドは旧テキサス州教科書倉庫6階端の窓(下の組写真・青〇)から大統領を狙撃、右下の写真手前の×が第一弾、奥の×が致命傷となった第二弾の被弾地点だ。この階は博物館となり、JFKファンの聖地になっている。


左上:はやぶさ用E5系の巨大防音壁。右下:二階建列車はダラス・フォートワース地区の近郊通勤を担
うTrinity Railway Express のBombardier BiLevel Coachだ。広い「キャンバス」一杯にテキサス州旗
が大胆に描かれているが、1970年代にカナダ・トロント地区のGO Train用に開発された古豪だ。
P.S. - I wrote this article en route to/from Dallas where young colleagues of mine whom I met there
surprised me by saying that they never visited the world-famous Sixth-Floor Museum. At this moment
I realized why I recently started to visit nearby seeing spots which I rarely did so far – I must have sub-
liminally thought I can visit them any time, but now I realize it is no more the case – because I am aging!

会食中、前回の6階博物館弾丸訪問の話をしたら、6階博物館こそダラス一の名所と全員が認めつつ、3名中2名が「いつでも行けるのでまだ行った事が無い」と言ったのだ。改めて両名の顔を見ると、共に若かった。筆者もいつでも行ける国内、特に関東の名所を疲れた週末に訪ねる気は起きなかったが、最近週末に思い立ってひょいとミニ取材に行く事が多くなった。本号の仙台然り、第9話更新時の敦賀然り、前号の鴨宮などは2度も行った。親のみならず、同世代でもそろそろ不自由になる人が出てきたのを目の当たりにしているうちに、「行けるうちに行っておこう」と思うようになったのだと、この時気付いた。要は老いたのだ。

人生黄昏の主人公の片想いを描いたヴィスコンティ監督の名画「ベニスに死す」で、砂時計の砂が落ちる速度は実は一定なのだが、砂が沢山残っている間は遅く感じ、最後は釣瓶落としのように早く感じるものだ、的なセリフがあったように思う。筆者も「砂」がまだ残っている間に、気になっていた乗物を訪ねてみようと思う。

 

準急ユーラシア、次はウランバートルに停車する。


Next Stop of the Trans Eurasian Express: Ulaanbaatar
Expected arrival: August 2018
(2018年5月 / May 2018)
 

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資料は各脱稿日現在の該当会社・団体のHP、WikipediaWebsite über die schnellsten Züge der Welt 各所掲のデータを参照したもので、それ以上の検証は行っていない。
意見にわたる箇所は全て筆者の私見である。
   
 
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